この記事の結論は、ジョブハギング(しがみつき社員)の急増は個人の怠慢ではなく、日本の労働構造と学び直し文化の遅れが生み出した必然だということです。
「最近、仕事はそれなりにこなすけど、絶対に辞めないし変わろうともしない社員が増えた気がする」——そんな感覚を持っている方は、おそらく少なくないと思います。
実はこの現象、海外ではジョブハギング(Job Hogging)という言葉で注目されはじめています。日本語に訳すなら「ポジションにしがみつくこと」「仕事の占有」といったニュアンスです。
私自身は現在、在宅ワークで業務委託の仕事をしながら、AIも積極的に取り入れて日々の業務を進めています。正社員とは違い、成果が出なければ契約が切れる立場なので、市場や技術の動向はかなりシビアに見ています。
その目線から見ると、しがみつき社員が増えている背景には、個人の問題だけでは説明できない構造が見えてきます。
この記事では、ジョブハギング・しがみつき社員とは何か、なぜ今急増しているのか、そして「では自分はどうすればいいのか」という現実解まで、フラットに整理していきます。
しがみつき社員(ジョブハギング)とは何か
まず言葉の整理からです。
ジョブハギング(Job Hogging)とは、自分のポジションや業務範囲を手放さないようにしがみつき、組織内の流動性を妨げている状態を指します。
欧米のHR界隈で使われるようになった比較的新しい概念で、日本では「しがみつき社員」という表現が近いといえます。
注意してほしいのは、この言葉が「サボっている人」を指すわけではないという点です。むしろ実態としては、それなりに働き、実績もあり、でも変化を極端に嫌がり、今の立場を守ることを最優先にしている——そういった層が該当することが多いです。
具体的にどんな行動に表れるかというと、
- 異動や昇格の打診を断り続ける
- 後任の育成に消極的で、自分だけが知る業務を意図的に属人化させる
- 新しいプロジェクトへの参加を避ける
- 転職市場には出ていかないが、今の職場でも成長しようとしない
こういった行動パターンが積み重なっている状態です。「それは単に向上心がない人では?」と感じるかもしれません。ただ、そう切り捨てるだけでは見えなくなる、大きな背景があります。
なぜ今、ジョブハギングが急増しているのか
ここが本質的な問いです。
個人の問題として見てしまうと「やる気がない人が増えた」という話で終わりますが、実際には複数の構造的な変化がこの現象の背景にあります。
終身雇用の崩壊と「失うものが大きい」という恐怖
日本の雇用環境は、かつて「一度入れば定年まで守られる」という前提がありました。
その前提が崩れはじめ、リストラや希望退職が珍しくなくなった結果、何が起きたか。
「今の場所を手放したら、次はない」という恐怖が強くなったのです。
特に40代・50代の層にとって、転職市場での評価は厳しい現実があります。スキルの陳腐化も早い時代に、「外に出るリスク」を考えると、今の椅子に座り続けるほうが合理的に感じられてしまう——そういう計算が働いても、不思議ではないです。

「学び直し」の文化が日本では根づいていない
これは、私が日々の仕事の中で強く感じていることです。
欧米では「リスキリング(学び直し)」が比較的文化として定着しつつあり、企業側が費用を出して社員のスキル転換を支援するケースも増えています。
一方、日本では学び直しの機運はあるものの、現場への浸透はまだ遅いというのが実感です。
さらに問題なのは、「学び直したい」と思っても、現実的な選択肢が限られているという点です。高額なスクールに通うことがほぼ唯一の選択肢になっているケースも多く、数十万円を払って学んでも、成果につながらないまま終わる方が相当数いるという現実があります。
- 受講費用だけで30〜80万円かかるスクールも珍しくない
- 学んだスキルを活かせるポジションや機会が職場にない
- 学び直しをしても、社内評価の基準が変わらない
こういった構造の中では、「頑張って変わろうとしても報われない」という感覚を持つ人が出てきても当然です。
その結果として、変化への挑戦を諦め、今の場所にとどまり続けるという選択に流れていきます。
副業・転職ブームの「裏側」にいる層
メディアでは「転職が当たり前の時代」「副業で稼ぐ時代」という言説が溢れています。ただ、それは一部の層の話でもあります。
現実には、転職したくてもできない、副業のスキルもない、でも今の会社を辞めるわけにもいかない——という層が相当数います。
そういった人が「しがみつき」という選択肢を取ることは、ある意味では合理的な防衛反応でもあります。華やかな「転職・副業ブーム」の陰で、動けない人がじわじわと増えているのが実態といえます。
「成長しなくていい」という空気が蔓延している職場
組織として「変化に対応しなければ生き残れない」と訴えながら、実際には年功序列的な評価基準が残り、変化への挑戦が報われにくい職場も多い。
そういう環境では、無駄に動かないほうが評価を保てるという逆説が生まれます。
挑戦してミスをするより、現状維持をしていたほうが安全——そんな空気が社員をしがみつきに向かわせる側面があります。
しがみつき社員が職場にもたらす影響
ジョブハギングが増えると、組織にどういう変化が起きるのかを見ていきます。
若手・中堅の「詰まり感」
もっとも分かりやすい影響は、ポジションが空かない問題です。上がしがみついていると、その下の層が昇格できず、能力のある若手が出口を求めて辞めていく。
この流れは、多くの現場で実際に起きています。
「頑張っても上が詰まっていて先が見えない」という感覚は、モチベーションを著しく下げます。せっかく伸びていた社員が会社を去り、残るのは変化を嫌う人だけ——という悪循環が生まれやすくなります。
業務の属人化とナレッジの断絶
しがみつき社員が取りがちな行動の一つが、業務の属人化です。自分にしかわからない仕事を作ることで、「自分がいないと困る」という状況を意図的に維持しようとします。
これは短期的には「安心」ですが、組織全体にとってはリスクです。その人が突然休んだとき、異動になったとき、業務が完全に止まります。また、後任が育たないため、チームの底上げも起きません。
AIと変化への対応が遅れる
これは、私が業務委託で仕事をしながら特に感じていることです。
業務委託という立場では、「今の仕事を継続してもらえるか」が常にかかっています。そのシビアさがある分、AIの進化や業務効率化の流れには早めに乗っていかないと、あっという間に代替されます。実際に、AIを導入しながら仕事を進めることで、対応できる業務の幅は確実に広がっていると感じています。
一方で、正社員の立場でしがみつき状態にある方は、このAI活用の波にも乗り遅れるリスクがあります。「今のやり方で問題ない」という感覚のまま数年が過ぎると、スキルのギャップは静かに、しかし確実に広がっていきます。

「しがみつき社員」を悪者にするだけでは解決しない
ここで少し立ち止まって考えてみたいです💡
ジョブハギング・しがみつき社員というと、どうしてもネガティブな文脈で語られます。ただ、その人たちが「最初からそうだった」かというと、そうとは限りません。
組織がそうさせている部分は確実にあります。
- 変化に挑戦した人が報われない評価体制
- 失敗を許さない文化
- 高額スクールに通っても成果が出なかった経験による「学び直し不信」
- キャリアの選択肢を設けず、ただ定年まで同じ場所に居続けることを期待してきた人事制度
こういった構造が積み重なった末に、人は「じゃあ動かないほうが安全だ」という結論に至ります。しがみついている人を責めるだけでは、根本的な問題は何も変わりません。
「今いる場所でできること」を考えることの重要性
では、実際にどう動けばいいのか。
私が業務委託として働く中で意識していることを、参考程度に共有します。
一つ言えるのは、「今のポジションを守りながら、そのポジションの価値を上げる」という発想が、しがみつきとは本質的に違うということです。
しがみつきは「変化しないことで現状を維持しようとする」状態です。
一方で、今いる場所で新しいスキルや手法を取り入れて価値を高めていくことは、むしろ逆の動きです。
たとえば、私の場合は業務委託の仕事の中でAIを積極的に使うようにしています。
最初から完璧に使いこなせたわけではなく、試行錯誤の連続でした。ただ、少しずつ取り入れていくことで、同じ時間でできる仕事の量と質が変わってきた実感があります。
高額スクールに通わなくても、今の仕事の中で少しずつアップデートしていくという道は確かにあります。すべての人がすぐに転職したり副業を始めたりできるわけではないからこそ、「今いる場所で何ができるか」を考えることは、しがみつきを脱出するための現実的な第一歩になり得ます。
組織側が見直すべきこと
当事者の話だけでなく、組織・管理職の立場からも整理しておきます。
まず、キャリアの選択肢を複数用意することが大切です。
「昇格か現状維持か」という二択しかない組織では、昇格を望まない人が動けなくなります。専門職としてのキャリアパスや、横への移動が評価される仕組みを作れると、しがみつく理由が一つ減ります。
次に、変化に挑戦することへの心理的安全性です。
失敗しても責任を取らされる雰囲気がある職場では、誰も動きたがりません。挑戦を評価する文化の醸成は、地道ですが効果は大きいです。
また、学び直しを「個人の努力」だけに任せないことも重要です。
高額スクールへの一括支払いではなく、業務の中で少しずつスキルを身につけられる仕組みや機会を職場として提供できるかどうかが、今後の組織の競争力を左右するといっても過言ではないです。
ジョブハギングが急増している背景を、社会全体で考える必要がある理由
しがみつき社員の急増は、単に「最近の人はハングリー精神がない」という話ではありません。
日本の労働市場における構造的な矛盾——「変化しろと言いながら変化を報いない職場文化」「転職市場の二極化」「終身雇用崩壊後の受け皿のなさ」「学び直し文化の遅れと高額スクール問題」——がそのまま現れている現象です。
これは今後さらに顕在化していく可能性があります。
少子高齢化で労働人口が減る一方、AIの進化が業務の代替を加速させる。
その波に乗れる人と乗れない人の差は、今後ますます広がっていくはずです。
個人の問題として片付けず、組織の設計や社会の仕組みの問題として捉え直すことが、この問題を前向きに動かすための第一歩だと私は思っています。
重要ポイントまとめ
- ジョブハギング(しがみつき社員)とは、ポジションや業務に固執し組織の流動性を妨げている状態を指す
- 急増の背景には、終身雇用崩壊・学び直し文化の遅れ・高額スクール問題・変化を評価しない職場文化など、構造的な要因がある
- 個人を責めるだけでは解決しない。「今いる場所でできることを増やす」という視点と、組織側の仕組み改革の両輪が必要
今日からできるアクション
・「今の仕事の中でAIや新しいツールを一つ試してみる」——転職や大きな学び直しをしなくても、小さな変化の積み重ねがしがみつき状態を動かす
・管理職・HR担当の方:「動きたくても動けない人」がいないか、評価制度とキャリアパスの設計を点検してみる
・どちらの立場でも:「しがみつき」を性格の問題として見るのをやめ、背景に何があるかを一度考えてみる
FAQ
Q. ジョブハギングとサイレント退職(クワイエット・クイッティング)の違いは?
A. サイレント退職は「最低限の仕事しかしない」という消極的離脱です。ジョブハギングは逆に「今の仕事・ポジションを手放さないようにしがみつく」行動です。方向性は異なりますが、どちらも職場の閉塞感や変化への不安が背景にあるという点では共通しています。
Q. しがみつき社員に対して、上司はどうアプローチすればいい?
A. 頭ごなしに「変われ」と言っても逆効果です。まず、その人が「なぜ動きたくないのか」の背景を把握することが先決です。ポジションへの不安なのか、スキルへの自信のなさなのか、評価への不満なのか——原因によってアプローチは変わります。
Q. ジョブハギングは中高年だけの問題?
A. いいえ。若年層でも増えています。特に「転職したいが動けない」「頑張ってもどうせ変わらない」という無力感から、早期にしがみつきモードになるケースも見られます。世代を問わず起きている現象です。
Q. 高額スクールに通わずに学び直しをするにはどうすればいい?
A. まずは今の仕事の中でできることを探すのが現実的です。たとえば、AIツールを業務に少しずつ取り入れてみる、無料や低コストのオンライン学習リソースを活用してみるといった方法があります。完璧な環境が整ってから動くのではなく、今あるリソースで小さく始めることが大切です。
Q. 業務委託や副業との違いはある?
A. 業務委託や副業で仕事をしている方は、成果が直結して契約継続に影響するため、変化への感度が自然と高くなる傾向があります。一方で正社員は、短期的には変化しなくても立場が守られやすい分、しがみつき状態に気づきにくいという側面があります。どちらが良い悪いではなく、それぞれの立場の構造を理解しておくことが重要です。
Q. ジョブハギング自体は違法?
A. 法的に問題になるものではありません。ただし、業務の属人化が原因で会社に損害が生じた場合や、後任の育成を故意に妨害したと見なされる場合は、評価・懲戒の対象になり得ることはあります。



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